“ポチャティブ”(ぽっちゃり+ポジティブ)な「マシュマロ女子」が大人気!?
2013年12月10日、突如として、ツイッターから「マシュマロ女子」現象は始まった。
3月に創刊した、日本初のぽっちゃり女子のおしゃれ応援マガジン『la farfa(ラ・ファーファ)』(ぶんか社ムック)のVOL.4 (11月20日発売)の「マシュマロ女子」と大きく記された1ページの写真が、ハンドルネーム「バター犬」(@_xiri)さんによって投稿された。
同誌のそのページには「ふわモコアイテムで毎日ガーリー」と書かれており、本来は、ぽっちゃり女子の冬用のふわふわモコモコした少女っぽいファッションを編集部が形容した言葉だった。ところが、「マシュマロ女子」という言葉とビジュアルのインパクトから、そのツイートが話題を呼び、6000件以上もリツイートされ、ネット上に一気に拡散。そして、同日、2ちゃんねる上にスレッドが立ち、700件以上もの書き込みがあった。
「マシュマロ女子」としてネットから一躍有名になったモデルの後藤聖菜さんのツイート
その間に、ページに掲載されていたモデルがふくよかな体型だったことから、「マシュマロ女子」という言葉が、ぽっちゃり女性の新しい呼び方として広まり、ネット上の話題を席巻。10日には約2万9000人、11日には1万7000人が「マシュマロ女子」という単語を引用。「Yahoo!」の検索急上昇ワードの2位に躍り出るほどの反響を呼んだ。
ネット発の社会現象となり、「マシュマロ女子」という言葉とともに、そのモデル、後藤聖菜(ごとうせいな)さんは一躍時の人に。12日には、彼女のブログへのアクセス数は13万件を超え、アメブロ(アメーバブログ)の分野別ランキングで1位に輝いた。その後、テレビ各局で、ワイドショーに始まり、ニュース番組に至るまで、連日、「マシュマロ女子」に関する報道が続いている。
しかし、「マシュマロ女子」という言葉に対して、ネット上では賛否両論があり、「単に太っているだけ」「自己逃避」といった誹謗中傷も数多いものの、彼女はまったく意に介さず。
『la farfa』(今晴美編集長)では、大きなサイズのぽっちゃり女子が実際にその服が着られるのかを明らかにするために、モデルの身長、体重、スリーサイズ、商品のサイズ展開などを明記している。後藤さんも、誌上やブログで、1994年生まれの19歳で、身長158cm、スリーサイズはB102・W90・H101、体重85kgとオープンにしている。
今まで、ぽっちゃり女子の中には太っていることで自信を無くす人も少なくなく、また、ファッションアイテムの選択肢も狭く、オシャレを楽しむこともままならなかった。彼女は「マシュマロ女子」の条件を、「ぽっちゃり、デブと言われる女子があきらめず、“ポチャティブ”(ぽっちゃりでポジティブ)に日々過ごすこと。毎日明るく、自分磨きをすること」だと言う。
しかし、「マシュマロ女子」など一過性の流行語で、「大きいサイズ」のファッションも所詮は単なるニッチ市場だと思われがちだ。だが、実は「マシュマロ女子」現象の背景には、消費者と各業界を取り巻く変化の激流が渦巻いているのである。
年間152誌が休刊する「出版不況」でも人気呼ぶ“憧れ誌”ならぬ“共感誌”
「出版不況」が叫ばれて久しい。
インターネットとスマートフォンの普及、電子書籍の台頭、活字離れ、少子高齢化社会の到来といった逆風によって、雑誌の推定販売額は15年連続の前年割れだ。2012年中に休刊した雑誌は、実に152誌に上り、大手出版社の雑誌の大半が赤字だとささやかれている。講談社の女性ファッション誌『Grazia(グラツィア)』と『GLAMOROUS(グラマラス)』が、2013年7月6日発売号をもって休刊した。両誌ともにピーク時には25万部あった部数が、近年は5万部を割り込んでいた。
2誌に限らず多くの女性誌は、部数も広告収入も軒並み右肩下がりで、凋落のスピードが加速している。この3年間で、小学館の『CanCam(キャンキャン)』は23万部強から11万部強に、主婦の友社の『S Cawaii!(エスカワイイ)』も15万部弱から6万部弱へと半分以下にまで減少した。他誌も平均して2~3割以上減っており、今後も休刊ラッシュが予想される。
「マシュマロ女子」のための雑誌『la farfa』(ぶんか社)。SNSでつながる感覚に近い“共感誌”として人気を呼んでいる
一方、休刊誌のマイナスをカバーすべく、続々と新たな雑誌が誕生し、創刊ラッシュが起こっている。3月に、今回の「マシュマロ女子」という新たなトレンドを生み出した、日本初のぽっちゃり女子向けファッション誌『la farfa(ラ・ファーファ)』を、ぶんか社が発刊。4月には、幻冬舎の子会社のギフトから独身アラフォー(40歳前後の)女性向けの『DRESS』が、創刊号から30万部もの発行部数でスタートした。
新潮社が8月に発刊したのは、旅やアートなど毎号異なるテーマを特集する、初の本格的女性カルチャー誌『ROLa』。世界文化社も、10月、ファッション誌『GOLD』を創刊。バブル景気を謳歌し、現在も消費意欲が高い40代後半から50代前半の女性を中心読者層に想定している。
各誌ともターゲットを明確に絞り込み、差別化を図ろうとしている。
休刊した雑誌と新創刊の雑誌の違いを、一言で表わすならば、「憧れ」から「共感」への変化だ。背伸びするのではなく、ありのままの自分を受け止め、人生を自然体で楽しむことをターゲットごとに提案している。80年代以降に確立された20世紀型の“憧れ誌”ではなく、SNSでつながる感覚に近い“共感誌”の代表格が、「マシュマロ女子」のための『la farfa』なのだ。
創刊号の初版部数は5万部を予定していたが、8万部を超えるヒットを記録。企画物のムックとしてスタートしたが、この冬の4冊目に至るまで順調に売上げを伸ばし、1周年を迎える2014年3月20日の発売号から、奇数月の20日発売での本格創刊が決定している。
そして、言うまでもなく、雑誌は、販売収入と広告収入によって成り立っている。販売収入を上げるには、読者にとって魅力と価値のあるコンテンツを、マンネリに陥らず、毎号、手を変え品を変え、提供し続けねばならない。ファッション誌であれば、常に新商品や新しいコーディネートを紹介し続ける必要がある。
そのためには、新たなメーカーやショップが続々と業界に参入し、次々に新しいアイテムを世に出してくれることが前提になる。そして、そういったメーカーやショップが新商品の広告を出稿してくれるから、広告収入も増える。つまり、「マシュマロ女子」のための新雑誌が成り立つのは、「マシュマロ女子」向けファッションの市場が伸びているからに他ならないのだ。
「ぽちゃノミクス」効果で「マシュマロ女子」市場が活況!?
いよいよ人口減少社会に突入し、成長が鈍化しているファッション業界だが、実は、世代を超えて、「マシュマロ女子」市場は、急成長市場となっているのだ。今や、アベノミクス効果よりも、ぽっちゃり女子をターゲットにした「ぽちゃノミクス」効果で、「マシュマロ女子」市場は活況を呈し、「大きいサイズ」に参入する企業が相次いでいる。
「マシュマロ女子」市場は、今までニッチ市場だとかえりみられて来なかったが、LLサイズ以上は日本女性の約3割はいると推計されている。他の市場の大きな成長が期待できない現在、最後に残されたフロンティアなのだ。
一口に大きいサイズの消費者とはいっても体型のレンジは広く、店舗に数多くのデザインやカラーの商品の品揃えをすると多くの在庫を抱えることになってしまう。また、彼女たちの中には、スマートな店員や他の客に交って試着するのは気が引ける人も少なくない。そういった市場特性から、まず初めに市場に参入したのは、リアルの大手流通の店舗ではなく、通販会社だった。通販なら、家にいながらにして、好きな時間に、誰に気兼ねすることもなく、数多くの商品の中から、サイズ・素材・デザイン・カラー・価格などを、じっくり見比べて買い物ができる。
ニッセンの大きいサイズ向け『smiLe Land』のネット通販サイト。リアルの店舗も全国4カ所で展開している
例えば、ニッセンは、2002年より、大きいサイズのファッションカタログ『smiLe Land(スマイルランド)』を展開している。2012年から、リアルの店舗も、東京・渋谷、千葉市、仙台、兵庫・尼崎の4か所にオープンしている。実店舗なら、実際に商品を手に取って、カタログではわからない商品の質感などを確かめられる。加えて、通販にあまりなじみがない消費者との接点作りにもなる。ネット上の通販サイトには、読者モデルやスタッフが登場する「等身大コーディネート」のコーナーを設け、着回しの提案を行っている。
ディノス・セシールの大きいサイズ向け『Plump』のサイト内で人気を呼ぶ馬場園梓さんとのコラボサイト「ばばちゃんコレクション」
また、ディノス・セシールでは、2008年から、大きめサイズのカタログ『Plump(プランプ)』を創刊。春夏秋冬の年4回の他、盛夏と真冬の年2回のダイジェスト版を発行している。人気お笑いコンビ、アジアンの馬場園梓(ばばぞの・あづさ)さんとのコラボレーションで展開中の「ばばちゃんコレクション」が話題を呼んでいる。『Plump』の創刊以来、利用数者も年々拡大し、毎年、前年比10%増のペースで売り上げが伸びている。
一方、インターネットモールの楽天も、4万店舗以上の大きいサイズの出店数をそろえるなど、各社、しのぎを削っている。そして、今後は、明るく元気な「マシュマロ女子」が増えていることから、通販企業のみならず、リアルの店舗が中心の流通企業の参入も、ますます増えるに違いない。
トップ企業も続々参入で、もう、「おふとりさま消費」なんて言わせない!
「マシュマロ女子」という表現に対して、ネット上では、おひとりさま消費ならぬ、独りよがりの「おふとりさま消費」だと揶揄する声もある。しかし、市場の拡大にともなって、リアルな店舗を有するトップ企業も続々と市場に参入。もはや、ニッチではなく、重点市場の一つになりつつある。
ユニクロの女性向け「特別サイズ」の専門ページ。サイズや色をわかりやすく表示したところ売上が前年比10~20%増に
ユニクロも、2013年8月、「特別サイズ」商品を拡充し、自社の通販サイト内に専門ページを開設して販売をスタート。今まで大きなサイズの商品は、一部の商品だけを通販サイトで販売していた。ところが、4万人の顧客にアンケート調査を行なった結果、1割以上から選べるサイズが少ないという要望が聞かれたため、成長戦略の1つとして本格的に展開を始めた。商品のサイズや色をわかりやすく表示するように工夫したところ、通販の売上規模が前年比10~20%増になっている。
さらには9月より、対象商品を一覧できる専用サイトを立ち上げた。商品のアイテム数も、男女の合計で、2012年の13アイテムから約200アイテムに大幅に拡大。秋冬の人気商品であるカシミヤ、フリース、ヒートテックといった商品もラインナップに加わっている。
伊勢丹の大きいサイズの婦人服売り場「クローバープラスショップ」のホームページ。トレンドを反映した純粋に買い物が楽しめる売り場になっている
一方、伊勢丹新宿本店は、2013年3月に改装を終え、全面開業した。そのリアル店舗の改装に際して、何と、以前は2階のエスカレーターの脇にあった大きいサイズの婦人服売り場「クローバープラスショップ」を、3階のエスカレーター前という一等地に移転したのだ。開業した月の店舗全体の売り上げは、前年同月比で16%増と好調だった。しかし、「マシュマロ婦人」のためのこの売り場は、全体の平均を大きく上回って、約3割も売り上げを伸ばした。
これからの「マシュマロ女子」の条件である、“ポチャティブ”(ぽっちゃりでポジティブ)という言葉の通り、ネガティブではなく、顧客へのポジティブなアプローチが功を奏したのだ。
従来の百貨店では、一般サイズの売り場の端に大きいサイズの売り場を隔離し、サインボードで区別しているところが多かった。ぽっちゃりであることを悩んでいる女性の気持ちになってみれば、そんな売り場に入ること自体が屈辱的であり、買い物は楽しみというよりストレスになっていたに違いない。商品も、オシャレを楽しむというより、体形をカバーすることに主眼が置かれていた。分類も、30歳以下のヤングと、それ以上のミセスといった年齢による2つの分け方しかなかった。
ところが、リニューアル後の伊勢丹では、純粋に買い物を楽しめるように、他の売り場に負けず劣らず最先端のトレンドを反映した売り場にした。また、年齢ではなく、ライフスタイルやイメージに合わせて、美しくて品がある・かっこいい・かわいいの3ゾーンに分類した。長い時間をかけて各ブランドと一緒に企画段階から商品開発を進めた結果、ブランド数は約1割、選べる商品の数は約3割増えた。試着室には、いくつもの服を持ち込んで試着できる、ゆったりしたスペースが設けられている。
「マシュマロ女子」の登場とは、あらゆる消費者がオシャレをあきらめない、そして、メーカーと流通はオシャレをあきらめさせないことで、眠っていた市場を一緒に掘り起こすアクションに違いない。それは、本来、自由であるはずの日本の女性ファッションが、自由を奪われ鎖につながれている現状を打破する突破口になる可能性を秘めている。
日本の女性とファッションを金縛りにする「9号神話」をぶっ飛ばせ!
日本の女性は世界中で最も自由にオシャレを楽しんでいるように見えるが、実はその真逆の点がある。見方によっては、男性の方がずっと自由にオシャレを楽しんでいるともいえる。それは、日本の女性とファッションが、「9号神話」に金縛りにされているからだ。
戦後、業界の発展に大きな役割を果たしたJISCが定めるJIS規格だが今や「9号神話」が女性ファッションを金縛りにしている
「9号」とは、経済産業省の外郭団体であるJISC(日本工業標準調査会)によるJIS(日本工業規格)で定められた、標準的な体型の日本人の成人女性に合う洋服のサイズとされている。「9号」とは「9AR」 の略で、統計上、日本人女性に最も多く出現する体型だ。バスト83センチメートル、ヒップ91センチメートル、身長158センチメートル。年齢が10~20代であれば、ウエストは64センチメートル、30~50代ならば、ウエストは67センチメートルを意味する。
「9号」より一回り小さいサイズが「7AR」=「7号」。「9号」より一回り大きいのが「11AR」=「11号」だ。5号、7号、9号、11号、13号と、基本的には数字が小さいほど小さなサイズ、大きいほど大きなサイズを意味する。
人間は当然、機械ではない。体型も十人十色、千差万別であり、規格通りの訳がない。ところが、それにもかかわらず、メーカー、流通、ショップ、女性消費者、女性誌が一緒になって、「9号神話」を作り上げ、結果的に、各々が自分で自分の首を絞めることになってしまっているのだ。
戦後、日本の女性のファッションはデザインや色を多様化することで、売り上げを飛躍的に伸ばした。逆に、サイズは9号を中心に、可能な限り、売れ筋だけに絞り込んだ方が売れ残りも少なく、利益率も高くなった。“個性の時代”とは行っても、20世紀末から、逆にサイズはますます標準化が進んで来たと言っても過言ではない。
店舗によっては、9号しかほとんど置いていない場合や、他のサイズがあっても9号以外は品数が少なかったり、デザインや色が限られている場合も少なくない。若い女性向けのファッションブランドの中には、9号しか製造していないことさえある。
一方、男性のファッションは、デザインのレンジは狭いものの、A・B・Y・O体とさまざまな体型に合わせたサイズの服があり、生地もセレクトできる。視点を変えれば、日本の女性は世界中のファッションを謳歌してるように見えて、「9号標準化」に金縛りになっているのだ。
女性の既製服の大半は普通サイズとされる9号で作られている。そのため、9号以外のサイズはデザインも色も選択肢が少なく、少量しか生産しないので価格も高くなりがちだ。このため、標準外の体型の女性は、オシャレの幅も狭い上に余計にお金もかかる。だから、世の多くの女性は、無理やりでも9号に体を合わせたり、悪戦苦闘して標準枠に入ろうとする。
実際、物理的にも、「9号標準化」は日本の女性を金縛りにしている。9号が、日本人女性に多い猫背の一つの大きな要因になっているのだ。
そもそも、 身長158センチメートルの人に向けて作った9号の服が、それ以上の身長の人に合うはずがない。無理に着れば、当然、引っ張られて猫背になってしまう。同様に、バスト83センチメートルの人に向けて作った9号の服が、それ以上にバストが大きい人に合うはずがない。こちらも無理に着れば、引っ張られて猫背になってしまう。
また、日本で作られている、「マシュマロ女子」向けの大きいサイズの婦人服の多くも、標準体型の9号の型紙に前後の横幅を足して作る場合が多い。このため、バストが大きい人が胸周りに合わせて服を選ぶと、前は突っ張って後ろは余ることになる。服の横のラインは前の方に寄り、両腕は服に合わせて前に引っ張られてしまう。これでは、どんなに背筋を伸ばして正しい姿勢にしようとも猫背になってしまう。
「マシュマロ女子」はサイズ神話から自由を取り戻す平成のジャンヌダルク!?
「9号サイズが入れば美しい」「9号サイズが入ればスタイルがいい」「9号サイズが入れば若い」というバカげた信仰が、多く女性の心にはびこってしまっている。
ファッション業界の売上至上主義の産物である「9号標準化」と、戦後の日本社会に広がった「やせている=美しい信仰」が産み出した日本女性の9号への執着が合体して、不動の「9号神話」が出来上がってしまっているのだ。
つまり、メーカー・流通による機能的な「9号標準化」と、女性消費者の心理的な「やせている=美しい信仰」が合わさって、「9号神話」という日本ファッション界に巣食う異形の目に見えない怪物を生み出したのである。
女性の中には大きいサイズ表示の服を買うことに抵抗を持つ人も多く、同じデザインの服であれば、7号、9号といった小さいサイズの商品の方がよく売れる。「やせてから着よう!」と思って衝動買いし、タンスの肥やしになっている場合も少なくないだろう。
「9号神話」は絶対不可侵なので、女性対象のセレクトショップの店員がお客様にサイズの話をする際には細心の注意が不可欠だ。パンツ(ズボン)を試着していてなかなか入らないお客様がいても、店員が「1つサイズを上げられた方が良いのでは?」などと軽はずみに言おうものなら、その顧客は顔を真っ赤にして激怒し、二度と来店しなくなることも珍しくない。
ブランドショップでも、店員が「ウチのブランドは全体的に小さめに作ってありますので、キレイに見せるためにワンサイズ上げられてみてはいかがでしょう?」と、心証を悪くしないよう気づかいながらアドバイスしても、顧客の中には「私は9号なんです!」と言い張る人さえいる。
これでは服は売れない。そこで、もはや誰でも知っている公然の秘密だが、メーカーやショップによっては、11号など大きめの商品を9号としている場合もある。特に、ミセス向けの商品は、ウエストや、そでのアームホールを入りやすく大きめに作るのだ。これでは何のためのJIS規格かわからない。
9号が入れば均整の取れたプロポーションで、それを超えた11号以上はイレギュラーだといった女性の思い込みは、日本のファッション産業の成長をさまたげている。今や「9号神話」でうるおっているのは、ファッション業界ではなく、ダイエット関連業界に違いない。9号を着るために、多くの日本女性がダイエットに血道を上げている。
もはやJIS規格が業界の発展をうながす高度成長期ではない。少子高齢化時代を迎えた現在、国民の多くは一定の枚数の服を持っており、残っているのは買い換え需要とオシャレ需要だ。9号が入らないからと買い物を控えたり、どうせ入る服がないとあきらめたり、大きいサイズにはオシャレな服が少ないと不満をつのらせている女性消費者は多い。明らかに、日本のファッション業界は、自らも「9号神話」に金縛りになり、そんな消費者のニーズ・ウォンツを見逃し、商機を逸している。
本来、服は着る人のためにある。一人一人が自由になるためにファッションがあるのだ。服の規格に自分を無理やり押し込めるのがオシャレだという世の中はおかしい。無理な数字に自分のからだが合わないからと一喜一憂しても意味がない。消費者もメーカーも流通もショップもメディアも、9号などというお上が決めた無機質な数字にしばられるのではなく、「サイズ神話」からフリーになるべきだ。
SNSから自然発生的に颯爽と登場した「マシュマロ女子」は、「9号神話」というアンシャン・レジーム(旧体制)から、日本の女性とファッション業界を開放する使命を帯びた平成のジャンヌダルクなのかもしれない。
出典: http://bizacademy.nikkei.co.jp/marketing/trend_watch/article.aspx?id=MMAC0y000020122013&page=1